「ドアを開けている時は、鍵がスムーズに回るのに、いざドアを閉めて鍵をかけようとすると、全く回らなくなる」こんな、まるで狐につままれたような鍵のトラブルに遭遇したことはありませんか。この不可解な現象には、実は明確な原因が存在します。そして、その原因は、鍵や鍵穴そのものではなく、もっと大きな部分、つまり「ドア本体」や「ドア枠」の歪みにあることがほとんどなのです。このトラブルの核心は、施錠の際に、ドアから飛び出す「デッドボルト(かんぬき)」と、それを受け止めるドア枠側の穴である「ストライク(受け座)」との位置関係にあります。正常な状態では、デッドボルトはスムーズにストライクに収まります。しかし、何らかの原因でドアやドア枠が歪むと、この二つの位置が微妙にずれてしまいます。その結果、デッドボルトがストライクの縁に引っかかってしまい、それ以上先へ進めなくなるため、鍵が回らなくなるのです。ドアを開けた状態で鍵が回るのは、デッドボルトがどこにも干渉することなく、自由に動けるからです。では、なぜこのような歪みが生じるのでしょうか。原因はいくつか考えられます。最も多いのが、ドアを支えている「蝶番(ちょうつがい)」のネジの緩みです。長年のドアの開閉によって、蝶番のネジが少しずつ緩むと、ドア全体が重力でわずかに傾き、ストライクとの位置がずれてしまいます。この場合は、プラスドライバーで蝶番のネジを締め直すだけで、劇的に改善することがあります。また、地震や、建物の経年による構造的な歪みが、ドア枠そのものを変形させている可能性もあります。この場合は、ストライクプレートの位置を調整する必要があります。ストライクプレートのネジを緩め、ヤスリなどで穴を少し削って広げることで、デッドボルトがスムーズに入るように調整します。ただし、この作業は専門的な知識を要するため、自信がない場合は無理をせず、専門業者に依頼するのが賢明です。この「ドアを開けると回る」という症状は、鍵の故障を知らせる重要なサインです。放置しておくと、ある日突然、完全にドアが開かなくなったり、閉まらなくなったりする危険性があります。原因が鍵そのものではないからと安心せず、早めに対処することが大切です。