イモビライザーの普及により、従来の物理的な鍵の複製やピッキングによる車両盗難は激減しました。しかし、窃盗団は、その電子の壁を破るための新たな手口を編み出します。その代表格が、スマートキーシステムを悪用した「リレーアタック」です。この巧妙な手口の仕組みと、イモビライザーが持つ限界を知っておくことは、現代の車を守る上で非常に重要です。リレーアタックは、主に二人一組で行われます。まず、一人の犯人が、特殊な受信機を持って、運転者がいる場所(自宅の玄関先や、レストランの店内など)に近づきます。スマートキーは、常に微弱な電波を発信しているため、犯人はその電波を受信機でキャッチします。そして、キャッチした電波を増幅させ、もう一人の仲間が持つ送信機へと「リレー(中継)」するのです。車の近くで待機していた仲間は、その中継された電波を送信機から発信します。すると、車は「正規のキーがすぐ近くにある」と誤認してしまい、ドアロックを解除。さらに、車内のスタートボタンを押せば、エンジンまでかかってしまいます。この手口の恐ろしい点は、スマートキー本体に一切触れることなく、また車に傷一つつけずに、わずか数十秒から数分で車を盗み出せてしまうことです。イモビライザーのID照合という仕組みそのものは機能しているのですが、その照合に必要な電波を、遠く離れた場所から不正に「中継」されてしまうため、セキュリティが破られてしまうのです。これは、イモビライザーという仕組み自体の欠陥というよりは、常に電波を発信し続けるスマートキーの利便性が、逆手に取られた結果と言えます。では、このリレーアタックから愛車を守るにはどうすれば良いのでしょうか。最も簡単で効果的な対策は、「電波を遮断する」ことです。スマートキーを、金属製の缶や、市販されている「電波遮断ポーチ(リレーアタック対策キーケース)」に入れて保管するだけで、外部に電波が漏れるのを防ぐことができます。また、一部の車種には、スマートキーの電波を一時的にオフにする「節電モード」が搭載されています。自宅にいる時など、車を使わない間はこのモードにしておくのも有効です。便利なスマートキーの裏側に潜むリスクを正しく理解し、適切な対策を講じることが、現代のカーライフには不可欠なのです。