「バイクの鍵をなくして業者に見積もりを頼んだら、予想をはるかに超える高額な値段を提示されて驚いた」という経験を持つ人は少なくありません。その高額な費用の元凶となっているのが、現代のバイクに多く搭載されている盗難防止システム、「イモビライザー」です。では、なぜイモビライザーが付いているだけで、鍵の作成費用が数万円も跳ね上がってしまうのでしょうか。その理由は、物理的な鍵の複製だけでは解決しない、電子的な「認証」という、目に見えない壁が存在するからです。イモビライザーが搭載されていない従来のバイクは、鍵穴の形に合う鍵さえ作ってしまえば、エンジンをかけることができました。しかし、イモビライザー搭載車は、二重のロックがかかっている状態です。第一のロックは、鍵穴と鍵の物理的な形状。そして、第二のロックが、鍵の持ち手部分に埋め込まれたICチップと、バイク本体のECU(エンジンコントロールユニット)との間で行われる、電子的なIDコードの照合です。この二つのロックを両方とも解除しなければ、エンジンは絶対に始動しません。つまり、鍵を全て紛失した場合、単に鍵穴から物理的な鍵(メカニカルキー)を作成するだけでは不十分なのです。それに加えて、新しい鍵に内蔵されたICチップのIDコードを、バイク本体のECUに「この鍵が新しい正規の鍵ですよ」と登録し直す作業が必要になります。この登録作業には、各メーカーの車種に対応した専用のコンピューター診断機(登録機)と、それを扱うための高度な専門知識が不可欠です。ディーラーや、専門的な設備投資をしている一部の鍵業者でなければ、この作業は行えません。高額な設備投資と、専門技術の習得にかかるコストが、そのまま鍵作成の費用に上乗せされているのです。さらに、車種によっては、ECUそのものを取り外して内部のデータを直接書き換えるといった、より複雑でリスクの高い作業が必要になる場合もあり、費用はさらに高騰します。イモビライザー付きバイクの鍵作成費用は、単なる「鍵を作る値段」ではありません。それは、高度な電子セキュリティを破り、再設定するための、専門技術と特殊機材に対する対価なのです。